名句の花束

名句の花束―フランス文学の庭から(27)

« Mon Nara » No 256、 2013年5-6月号 掲載 

名句の花束―フランス文学の庭から(27)

三野博司(副会長)

L’essentiel est invisible pour les yeux.
いちばん大切なものは目に見えないんだ。(2)
(サン=テグジュペリ『星の王子さま』1943年)

『星の王子さま』出版70周年を記念して、4月末に河出書房新社が『星の王子さまとサン=テグジュペリ』を刊行したことは先号で書きましたが、フランスでは新しい伝記が出版されています。著者はルーマニア出身のヴィルジル・タナズ氏。小説家、劇作家、演出家であり、1996年には、彼の新演出による『星の王子さま』が話題になり、その後もパリを中心にして上演され続けています。DVDが出るとか、日本公演を企画しているとか、いろいろ情報は伝わってきますが、どちらも実現していません。ただ、Youtubeでは、舞台のごく一部を見ることができます。
このタナズ氏と知り合ったのは2007年12月、パリにあるサン=テグジュペリ権利継承者事務所でした。サン=テグジュペリの子孫であり所長であるオリヴィエ=ダゲ氏に紹介されて、しばらく話をしました。このときタナズ氏から彼が演出する『星の王子さま』の公演に招待され、翌日、レピュブリック広場から歩いてすぐのル・タンプル劇場へ出かけました。この魅力あふれる舞台の様子については、拙著『「星の王子さま」事典』(大修館書店)で紹介しています。
翌2008年11月、モンパルナスのカフェでタナズ氏と再会したとき、彼はカミュの伝記を準備中であると教えてくれました。そしてこう言い添えたのです。「これで私たちを結びつける絆がもう一つできましたね」と。彼がルーマニア時代にカミュの戯曲『戒厳令』を母国語に訳したことは知っていましたが、伝記執筆の件は初耳でした。本が完成して、カミュ没後60周年の2010年に刊行されると、タナズ氏からは手書きの献呈本が送られてきました。
Pour Hiroshi Mino、 avec la même affection、 au nom de votre admiration pour Camus qui nous lie、 je l’espère、 un peu plus、 un peu mieux. (三野博司に。変わらぬ愛情をこめて、カミュに対するあなたの賛嘆の名において。その賛嘆が私たちをいっそう強くいっそう堅く結びつけることを希望しつつ。)
以後、彼はカミュ関連のシンポジウムやテレビ番組にも出演するようになります。同時に、伝記執筆に力を注ぎ、ガリマール社のフォリオビオグラフィのシリーズからすでに、チェーホフ、カミュ、ドストエフスキーが刊行されて、初めの二冊は祥伝社から日本語訳も出ています。
そして、今回送られてきたのはサン=テグジュペリの伝記です。これにも、手書きの献辞が添えられていました。
Pour Mino Hiroshi、 avec la même admiration、 avec la même amitié、 pour les souvenirs de tout ce qu’il a fait pour notre Saint-Exupéry. (三野博司に。私たちのサン=テグジュペリに対して彼がなしたすべて仕事の思い出に、変わらぬ賛嘆と、変わらぬ友情をこめて)。
ところで、この本の裏表紙には、次の句が掲げられています。
Voici mon secret. Il est très simple : on ne voit bien qu’avec le cœur. L’essentiel est invisible pour les yeux. これがおれの秘密なんだ。とてもかんたんなんだよ。心で見なくっちゃ、よく見えない。いちばん大切なものは目に見えないんだ。
『星の王子さま』のなかでも一番よく知られている句です。第21章、キツネが王子さまに言うことばのなかにあります。ところで、この句については、2011年12月、ニューヨークの見知らぬ人から突然メールが送られてきて、いくどかのメールのやりとりの結果、ひとつの「発見」をすることになります。それについては次号で。